終わったはずの「甲子園の青春」を、文化系運動音痴が取り戻しにいく話
平成最後の夏とともに、記念すべき第100回目の甲子園も終わりを告げた。
そのとき、「面白法人カヤック」と名乗る会社から来た突然のメール。
あなただけの専用甲子園?
ドラマチックバッティングセンター?
・・・トクン(高鳴る胸)
ロマンを感じないのが、大人だというなら、
俺は一生、子どものままでいい。
それが俺のモットーだ。
チョ待てよ、平成。
俺、もう今年で27歳だけど、やり残したこと、あんだよ。
俺・・・
甲子園のバッターボックスに立って、青春を取り戻したいです!!!!!!
アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア(響き渡る甲子園のサイレン)
※この記事は面白法人カヤックの提供でお送りします。
15年ぶりくらいにバッティングセンターにきた
呼ばれるがままに、バッティングセンターに来た。
運動音痴・文化系ライターが、ヨソ行きのスポーツウェアなど、持っているはずがない。
浮かれたシャツと、ニット帽で臨ませてもらう。
一目瞭然だとは思うが、ドラマチックさの欠片もない。
「本当にこんな田舎のバッセンで俺の青春を取り戻せるのか?」
不安に思った。
どうもカヤックは俺の青春の重みを舐めているにちがいない。
運動音痴。
それは、学生時代において「モテない」「イケてない」「セックスできない」を体現する焼印(スティグマ)であった。
体育の時間に野球をする際も、「俺、野球とかルールわからないんですよ〜〜」と言って、「文化系ピエロ」を演じる他なかった。
本当は、野球が大好きだった。
ルールを知らないはずなんてない。
プロ野球も高校野球もずっと見ていた。
でも、知らないふりをするしかなかった。
好きだといえば、上手いんじゃないかと期待される。
そして、「好きなくせに下手なんだ」と囃されてしまう。
甲子園なんて、夢のまた夢のまた夢だ。
こんなに待ち望み続けた「青春」を、本当にカヤックは取り戻してくれるのか?
どうも、カヤックは俺の青春の重みを舐めているにちがいないのだ。(2回目)
バッターボックスに立ってみた
「体験者、稲田さん入りまーす」
係員の誘導に合わせて、半信半疑でバッターボックスに入ろうとした、そのとき。
マネージャー「青木くん!そんな体じゃ、無茶よ!」
青木くん「離せ!」
マネージャー「あっ……!」
「なんか始まった。」
目の前で繰り広げられる謎の小芝居にただ呆然とする俺。
すると、続けて後方から、
女「これで安心ね。ズイキちゃんも野球なんかやめて勉強に専念してくれるわ」
男「そうだな。あいつにはこれから最高の教育環境を与えてやる。これで稲田財閥も安泰だ」
"ズイキちゃん(俺の下の名前)" "稲田財閥" ……。
聞きなれない言葉が並ぶが、おそらく俺の父母ということなのだろう。
とりあえず、悪役であることだけはわかる。
すると、前方で青木くんが心配するマネージャーを振り切り……
バッターボックスに立つ。でも、結局……
倒れてしまった。
ちょっと待って、俺、何見せられてんの??
察するに、小芝居でストーリーをつくって、ここぞという場面で、俺に打席に立たせようとする魂胆なのであろう。
ドラマチックバッティングセンターってそういうことかよ。
とはいえ、俺も今年で27歳になる。
そんな小芝居一つで、心を動かすほど、やわな人生を歩んできちゃいない、はずであった。
チームメイト「青木!」
マネージャー「青木くん!」
監督「なんでこんなになるまで黙ってたんだ!」
マネージャー「すみません!」
監督「残念だが、もう試合を棄権するしかない…」
僕「(おいおい、これ、”あの流れ”じゃん……)」
メンバー「こんなときに、稲田がいてくれたら……」
マネージャー「稲田くん……」
(やっぱそれだよね……)
すると、後ろから再びあの夫婦が……
母「ほら、ズイキちゃん、早く帰るわよ」
父「こんな土臭い連中と仲良くしても意味がない、帰るぞ」
ちょっと待って、青木くんが何か言いたそうで、、
青木くん「……稲田!お前しかいないんだ!」
(トクンッ)
俺しか…いない……
俺は文化系で、運動音痴で、童貞で、そんな俺なのに……。
みんな、俺を頼ってくれるのか……。
俺を待ってくれているのか……。
母「ほら何してるの、早くママと美味しいお寿司食べにいきましょ」
・・・
「……行かない」
「え?」
「俺が……」
「俺が打つ!!!!!!」
言ってしまった。
いや、言うしかなかった。
場の空気も勿論そうだけど、この先にずっと待ち望み続けた「青春」がある気がしたのだ。
青木くん「よお、遅かったじゃねぇか」
「あとは頼んだぜ、稲田。」
「ああ、任せろ」
(なにこれ、楽しい……////)
すると、マネージャーが……
マネージャー「稲田くん!」
「甲子園、連れていってね」
本気で照れちゃうやつ。
「わかった!連れていく!連れていくから!」
帽子とユニフォームをマネージャーに着せてもらう。
明らかに場違いだったニット帽は捨て去った。
髪型だけは、立派な野球部である。
青木くん「絶対打てよ、ホームラン」
俺「ああ、任せろ」
(ヤダァ……ずっと、こういうのしたかった……////)
「よし!」とバッターボックスに立った次の瞬間……
!!!!!!!????
ちょっと待ってちょっと待って、一体何事??
「かっとばせー♪ い・な・だ!」
目の前で生演奏してくれて、自分の名前を応援してくれるだと!!
「やだこれ……嬉しい……////」
この満面の笑みである。
バッターボックスに立つ選手の気持ちがわかった気がした。
応援してもらえて、たしかに嬉しい。でもその分だけ感じるのは「責任」である。
もちろん演技だとはわかっているが、不思議と「打たないとマジで申し訳ない」という気持ちになってくるのだ。
いざ、皆の期待を背負って!勝負!
俺専用実況者と、俺専用ウグイス嬢が、会場を盛り上げる。
バッターボックスで「シャァ!」と吠える姿は、野球部そのもの。
そこに、かつての文化系運動音痴の姿はない。
(想像できるか稲田……高校生の17歳の稲田よ……)
(お前は10年後、たくさんの仲間に支えられている。こんなに可愛い女の子がお前が起こす奇跡を待っているんだ)
(なぁ、稲田。人生は捨てたもんじゃねぇぞ。いつだって青春は取り戻せるんだ。)
(スイング一つで、人生は変わるのさ……)
(こんな風に……)
(あれ……?)
ボールが前に飛ばない……!
ちゃうちゃう!思ってたんとちゃう…!
結果
ボテボテのセカンドフライ。
俺はチームの危機を救うことができなかった。
やめろよ、そんな顔で俺を見るなよ……
急にシビアな成果主義になるのやめろよ……
思えば、そうだった。
甲子園でスポットが当たるキラキラとした活躍の裏には、はるかに多くの「やりきれない思い」が存在するのだ。
このほろ苦さも、青春ならではと言えようか。
今までの人生からは、決して味わうことのない経験だった。
俺専用マネージャー、俺専用ライバル、俺専用ウグイス嬢に、俺専用実況。
大舞台で味わう期待と責任。
そして、敗北の味。
そうか、これが青春の1ページだったのか……
純白のたま、きょうぞ飛ぶ。
嗚呼 栄冠は君に輝く。
ありがとう、甲子園。
ありがとう、カヤック。
これで安心して、平成最後の夏を終えることができる……
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— 練馬のバッティングセンター (@Batting_oizumi) August 7, 2018
応募方法は、
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(詳細はこちらから https://koshien-pocket.kayac.com/100th/event/ )
イベントまで日にちが差し迫ってます!
あの日夢見た青春、叶わなかった甲子園。
平成最後の夏に、すべて取り戻しましょう。
でも、やっぱりこっちの方が落ち着くよね。(バッセンのゲームセンターにて)
書いた人:稲田ズイキ
写真:Masayuki Hirota